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第12回 桜井 晃 氏


主題: 「ヨットデザイン講座」その2

キールとラダーのデザイン

講師: 桜井 晃 氏

九州大学教授(航空宇宙工学)

開催日時:1999年6月26日(土曜日) 11:00〜17:00


開催場所: 東京・夢の島マリーナ会議室


参加者: 総勢30名




@のっけから翼型と揚力の重要な事実を教えていただきました。

1)翼型はなぜ揚力を発生させるのか。それは上面(リーサイド)流の平均流速が下面(ウェザーサイド)のそれより速いからである。、、、それ自体は正しいのだが、

2)その理由として、上面流と下面流が翼型後端で同時に到着するからである(だから、長い距離を走らされる上面流は、短い距離の下面流より速くなる)とする理論の間違い。

3)正しくは、、、流体に粘性がなければ、翼型後端近傍にも下面からの急激な回り込み流が現れ、これにより(上面の負圧につりあう程度の)瞬間無限大の正圧が発生する。しかし空気や水には粘性があるので、この回り込み流が流されてしまい(Kutta 条件)、くだんの瞬間無限大の正圧は消滅し、上面前部の大きな負圧のみが残り、つまり揚力が発生する。

Kutta 条件:
翼のとがった後縁では、上下面からスムーズに流出するような流れしか存在し得ない(smooth-flow 条件)。

丸い背中の翼を持たない紙飛行機がなぜ空を飛ぶことができるのか、それは紙飛行機の翼の後縁がとがっているからである。

@聴講のヨットデザイナー陣が非常な興味を示した、翼の失速対策。
つまり、翼の前にスケグ状のフィンを付けるとその前縁剥離渦によって、翼の失速到来角度を大幅に遅らすことができる。戦闘機の実例では迎角100度付近までも失速せずに航行することが可能である。

@ エトセトラ、エトセトラ、、、

@桜井先生から、ヨットデザイナー諸氏への問いかけ

1)面積が小さくてアスペクト比の高い翼の使用もよいが、船体全体の濡れ面積を考慮に入れて、しかも大きな迎角でも失速しない、船体を含めたトータルな視点で翼形状をデザインするという手法はどうか、、、

2)ヨットのラダーは単体ものがほとんどだが、なぜ飛行機のようにその後端にトリムタブをつけないのか。こうすれば、ラダーにかかるトルクがずいぶん軽減できるのに、、、

3)エトセトラ、、、

桜井先生は(飛行機方面はひとまずおいて)セーリングヨットを今後の研究課題とされるそうです。当面、ヨットの空中翼部分、つまりセール部それ自体が自己バランスできるシステムについて研究を進めるお考えのようです。

25年前、大橋がオランダに就いたころ、欧米の大学教授が曳航水槽でヨットを引く姿や、ヨットの艇上でセールを繰る姿を見て、彼我の違いを強く感じたものです。しかし今や日本でも、桜井先生や、増山先生、野本先生、ニッポンチャレンジの先生方、その他多くの先生方の実像を目の当たりにする時、わが国でもそのような景色が常態化しつつある、いやそれ以上になりつつあるのだなァ、と痛感する今日この頃です。

今回の「ヨットの科学」では待望の2次会が実現しました。夢の島マリーナの東京ヨットクラブのご配慮でクラブルームをお借りしたのですが、ここが19:30まで使用可能ということで、クラブライフ(?)を十分に堪能することができました。


<講師の横顔>

「自分のことを書くのは、どうも苦手です」とおっしゃるのを 何とか聞き出したのが以下の情報です。

桜井晃(さくらい あきら)
昭和17年生まれ、福岡県出身
九州大学工学部航空工学科卒業、工学博士、
九州大学教授(九大大学院工学研究科航空宇宙工学専攻) 飛行力学講座担当

@中学校の頃からの飛行機きちがいだったが、30になる頃、飛行機のコンピュータ化 にロマンを見失った気になり、船に惹かれ始めた。
@ゴムボートから始め、米軍佐世保基地が縮小に伴って放出したおんぼろのクリン カー張りディンギーを修理して乗り始める。その後、シカーラ、ヤマハ21JOGと進 み、現在はヤマハ33。
@専門はもともと空気力学だったが、15年ほど前から飛行機力学講座に移り、主とし て無人飛行機を使って機体の空気力学的性質を調べるという研究を行っている。今は 飛行機とも再び折り合いがつき、動くもの(ビークル)全般にいろいろ興味を持ってい る。
@セーリングヨット研究会の影響で、翼を持つヨットの研究も始めたいと思ってい る。

大橋から(誤解を恐れず)少しコメントさせていただきますと、、、 その無人飛行機を、上記ヤマハ33の艇上からカタパルトを使って打ち出す、 なんぞという楽しいことを日常的にやってる、 (硬いイメージの)旧帝国大学教授とはとても思えない、創造的、行動的な先生で す。




当日の写真、ムービーは 資料  に入れました



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